労働者教育協会のブログ

生きにくいのはあなたのせいじゃない。

「憲法にも安保にも強い活動家」を!―「路傍の人」さんの批判によせて

  5月10日(木)に日米安保を軸とする総学習運動の研究会の告知をだしたら、「労働者教育協会の『安保学習』は旧態依然としています」というご批判をいただきました。

 つづけてこの方は、以下のように発言されています。
  「安保条約を厳しく批判すればそれでたたかいが前進するという紋切り型の発想です。
  多くの国民が安保条約を是認していること、憲法9条も必要だけれど安保条約も必要だと考えているのですから、そういう世論状況をふまえた学習会や『学習の友』が必要です」。

  たいへん大事な問題ですので、かなり長くなりますが、コメントします。

※この方の発言は以下をクリック↓
 
http://blogs.yahoo.co.jp/gakusyu_1/folder/197777.html

  私たちは、「安保条約を厳しく批判すればそれでたたかいが前進する」などと単純に考えているつもりは毛頭ありません。
 また、「多くの国民が安保条約を是認していること、憲法9条も必要だけれど安保条約も必要だと考えている」点も大事だと思いますし、「そういう世論状況をふまえた学習」が必要だという点も賛成です。

  ただ、「安保条約を厳しく批判すればそれでたたかいが前進する」ほど、ことは単純ではないということはたしかですが、だからといって、安保批判が必要ない、ということにはならないのではないでしょうか(そういうことをいっているわけではないとは思いますが、念のため)。
 むしろ私たちは、現在の状況は、本格的な安保批判が足りない、もっと徹底的に安保を批判すべきだと考えています。
 そのためにも、「安保に強い活動家」を大量に養成する必要があると思っています。

  現在、労働運動や社会運動のなかで、安保問題へのとりくみがきわめて弱くなっています。
 この「安保問題について正面から議論することが弱くなっている」事態こそが問題ではないかと思います。
  こうした事態を打破し、安保を廃棄して、憲法を生かした日本を実現していく展望を切りひらいていくことこそが、緊急にもとめられているのではないでしょうか。

  なぜこのような事態になってしまったのか。
  それは、1980年の「社公合意」に端を発しています。

  当時、最大のナショナルセンターであった総評指導部の強い要請のもと、日本社会党公明党日米安保条約自衛隊を容認し、日本共産党を排除する連合政権構想に合意しました。
  これにより、労働組合や民主団体における安保問題のとりくみが大きく後退することになります。

  もちろん、先ほどものべたように、ただ闇雲に安保を批判すればいいというものではありません。
 安保を正面切って批判するだけでは、うまく対話にならないケースも少なくないことと思います。
  対話においては、さまざまな工夫や配慮が必要でしょう。

  対話のさいには、「何が重要か、ということと、何からとりかかるか、ということは別だ」ということをおさえておくことが大切です。
   「何が重要か」を理解してもらうためには、媒介、手がかりが必要です。
  媒介、手がかりを活用することによってこそ、一致点を追求できると思います。
  たとえば、「軍事費を削って社会保障や福祉を充実させる」など、一致できる内容を1つひとつ積み重ねていくことがことが大切だと思います。

  ただ、「工夫や配慮が必要」だからといって、「安保を厳しく批判する」ことが必要ないなどということにはならないと思います。
  むしろ逆で、「安保を厳しく批判する」という原則的な立場・姿勢を堅持することによってこそ、「工夫や配慮」が生きてくるのではないでしょうか。
   「安保を厳しく批判する」ことを抜きにした「工夫や配慮」は、下手をすれば「現状追随」あるいは「迎合」となってしまい、事態の打開を妨げることにならないかという危惧を感じます。

  また、「多くの国民が安保条約を是認していること、憲法9条も必要だけれど安保条約も必要だと考えている」という点についても、慎重に考える必要があると考えます。
  もう30年前になりますが、憲法学者法社会学者の渡辺洋三さんが著書で以下のようにのべていたことがあります。

   「世論調査をすると、安保条約を肯定する人が増大してきており、最近の各種調査では、五〇%、場合によっては六〇%を超える傾向にある。
  このような統計数字をあげて、それゆえ安保について国民的合意が成立しているとのべる評論家も少なくない。
  私が個人的に聞いた学生の中にも、安保賛成論者がいる。
  ところが、その学生は、安保条約の中味についてほとんど知らない。
 単純に、アメリカが日本を守ってくれている条約であるというくらいにしか考えていないのである。
  驚いたことに、大学の法学部の学生でありながら、安保条約の条文を読んだことがない者がいる。
  憲法の条文も読まないで、どうして憲法の善し悪しが分かるはずがあろう。
  同様に、安保条約の条文も読まないで、どうして賛成か反対かをきめることができるはずがあろう。
  法律家の卵である法学部の学生さえそうである。
  まして一般市民の中には、安保条約の内容も分からないで賛成している者が相当多数いるのではなかろうか」。

  渡辺洋三著『現代日本社会と民主主義』(岩波新書、1982年)より。
  読みやすくするために、読点ごとに改行しましたが、原文は改行なしです。

  手元に最近の資料がないので、正確なことはいえませんが、おそらく現在も、渡辺さんの指摘とあまり変わらないのではないかと感じます。
  だからこそ、「安保に強い活動家」を育てる必要があるのだと思います。
   「憲法9条も必要だけれど安保条約も必要だと考えている」人たちの内実を考慮すれば、安保問題の本質にきちんと切り込める「安保に強い活動家」の集団が、さまざまな「工夫や配慮」を施しながら対話活動をすすめていけば、安保反対を多数派にしていくことは、けっして不可能ではでしょう。
  そのことに確信をもつことが大事です。

  また、渡辺さんは、「憲法の条文も読まないで、どうして憲法の善し悪しが分かるはずがあろう」ともいっています。
  この点も同感です。
  ですから、護憲派といわれる人たちの内実についても注意して考える必要があるでしょう。

  私たち労働者教育協会は、2006年2月、勤労者通信大学に「憲法特別コース」を発足させました(2008年度には「特別」を削除して「憲法コース」として継続)。
  明文改憲攻勢がヒートアップしていた情勢に対応して発足したのですが、開講した2006年度には約8000人、昨年2011年度までに約1万人が受講しています。
  2007年参院選における自公与党の歴史的惨敗によって、改憲を公言した安倍晋三政権が退場し、明文改憲策動は一時的に頓挫しました。
  憲法コースも、憲法の「語り部」、あるいは「憲法に強い活動家」を養成し、明文改憲策動を「一時撤退」させたことに、一定の貢献をはたすことができたと思います。

  憲法コース受講生の反応をみると、とくに立憲主義、日本の侵略戦争の実態などについて「目からウロコが落ちた」というような感想が多くよせられました。
  もっといえば、憲法の「そもそも論」にかかわる感想が多かったと思います。
  活動家といわれる人たちもふくめて、少なくない国民が、意外と日本国憲法をきちんと読んだことがなかったり、正確に理解できてなかったことをあらためて実感しました。

  勤通大憲法コースは、今年2012年度は休校しています。
  来年2013年度にリニューアル開校する予定で準備をすすめています。
  これまでのテキストは、9条の会との連携も意識し、安保を正面から批判する叙述にはしていませんでした。
  今度のテキストは、情勢の変化を考慮し、「憲法を生かす」ということを前面にだした内容にします。
  同時に、安保問題についても積極的に切り込みます。
  いわば、「憲法にも安保にも強い活動家」を育てるためのテキストをめざしています。
  新・憲法コースも、日米安保を軸とした総学習運動の一環として位置づけることができます。

  話は変わりますが、現在、3.11を契機として、安保問題において新しい可能性が生まれています。
  安保問題に接近する多様なルートが生じているのです。
  対米従属の多面化、多様化が、逆に、安保を考える多様な糸口を提起しています。

  原発問題、TPP問題で国民的たたかい、国民的共同の運動が大きく前進しはじめています。
  また、青年や女性たちは、これまでの社会や政治のあり方、生活のあり方をかなり深いところから問い直す動きを示しています。

  こうした国民的な共同のたたかいがさらに発展し、それがやがて一つの流れに合流することによって、日本の政治革新の展望が生まれてくることでしょう。
  そして、この国民的なたたかいのなかで、日米同盟の問題が議論にならざるを得ないと思います。

  そのさいに、日米同盟=日米安保とのたたかいに真正面から挑む労働組合運動の役割はきわめて大きなものになります。
  学習教育運動は、この日米同盟とのたたかいに真正面から挑む労働組合運動や社会運動の前進に貢献していかなければなりません。

  したがって、いま重要なことは、この国民的共同のたたかいを大きな流れに合流させる運動に貢献する私たち学習教育運動の働きかけを強めることにあります。
  それぞれの個別的な問題をきちんと理解するとともに、その背後に存在する本質的要因に目をむける情勢学習を発展させることが大切になります。

  いま、活動家が情勢に確信をもち、職場や地域で意欲的にその役割をはたたすには、この本質的要因を深く理解することがもとめられているのではないでしょうか。
  それは、個別的問題ととともに、その背後にある日米同盟=日米安保の関連を理解することです。
  そのためには、情勢を長い視野のなかで、日米安保を軸に、さまざまな問題と関連づけて理解することが大切になっているのです。
  この関連を理解しなければ、情勢に確信をもつことはできないと思います。

  日米安保を軸とする情勢学習の深化によって、情勢の本質と社会変革の課題を明確に理解することが可能になり、たたかいに確信をもつことが可能になります。
  こうした情勢学習を今日の労働運動=階級闘争がもとめているのです。
 
  また、各党からの改憲案が目白押しです。
  それぞれの個性はありますが、全体としてみれば、本音は9条改憲、そのために当面は改正要件である96条をターゲットとしています。
  改憲の既成事実をつくり、本丸である9条改憲をやりやすくするのがねらいといえます。
 
  こういう情勢ですから、日米安保を軸とする総学習運動をつうじて、「憲法にも安保にも強い活動家」を大量に育てていくことが重要なのだと思います。

  日米安保を軸とする総学習運動は、まさにこのことに貢献するきわめて重要な意義をもっているのだと、私たちは自負しています。
  このような私たちの問題意識を、ぜひご理解いただきたいと思います。   (総学習運動プロジェクト事務局)