参院選の結果をみるにつけ、主権者・立憲野党側の力量を抜本的に高めていく必要をあらためて痛感します。
選挙中からつづけていた総会方針からの抜粋をもう少しつづけます。
今回は、すでにアップしている気候危機、ウクライナ問題を除いた、国際問題関連です。
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《アメリカをどう見るのか》
トランプ政権からバイデン政権になり、政策上の変化が明確に起こっています。外交上では、「アメリカ第一主義」という「孤立政策」から、「同盟国重視」の従来の路線に回帰した点が特徴であり、国内政策では、新自由主義的経済政策からの脱却が試みられています。また黒人差別の撤廃、ジェンダー平等の政策が具体的におこなわれています。バイデン大統領は、副大統領に黒人女性のカマラ・ハリスを任命し、また、アメリカ史上初めて、黒人女性を最高裁判事に任命し、上院の議決を経て、黒人女性の最高裁判事が誕生しています。
アメリカでは、新自由主義的経済政策は、1981年に大統領に就任した、ロナルド・レーガン政権以来、一貫して採られてきた政策で、今日に至るまで、アメリカ社会に超格差社会をつくり出してきました。2008年9月のリーマン・ショックにはじまる世界経済危機は、まさにその政策の破綻を意味するもので、危機のさなかに誕生したオバマ政権は、新自由主義的政策からの脱却を試みましたが、議会共和党の執拗な攻撃によって、実現することは難しく、その後出現したトランプ政権は、異常な人種差別政策の下で、減税と規制緩和の新自由主義的政策を実行し、富裕層への富の蓄積と多くの働く人々への貧困の蓄積が顕著となりました。2019年末から世界的に流行しているコロナ
感染症は、アメリカの現場で働く低賃金労働者の解雇を急速に引き起こし、深刻な経済危機と化しました。
現在バイデン政権の下で、新自由主義的経済政策からの脱却が試みられています。減税ではなく、多国籍企業には、適切な税を支払わせるしくみを国際的につくりあげようと試みているし、法人税の引き上げ、できれば、富裕税によって、膨れに膨れ上がった富裕層からの税収増を考えています。また、労働者へは、現在の連邦最低賃金時給7.25ドルを時給15ドルに引き上げること、労働環境の改善とともに労働組合の組織化をすすめることが重要だとバイデン大統領は言っています。現在アメリカでは、労働組合設立の動きが急です。バイデン大統領は、巨大情報企業のひとつ、アマゾンに労働組合が設立されたとき、バーニー・サンダースとともにその労組結成に祝辞を送っていま
す。
しかし、現在アメリカでは、コロナ感染症の世界的大流行に端を発する、世界的サプライ・チェーンの分断によって、供給が需要に追い付かず、深刻な物価高騰の事態が引き起こされています。このことで、国民の多くが、政権の政策に批判的になり、バイデン大統領の支持率は、39%と低迷しています。今年11月には、中間選挙が実施されることになっていますが、政策は、議会の協力がなければ実施は不可能です。オバマ政権の二の舞になれば、新自由主義的政策からの脱却は不可能と思われます。
《アメリカと中国の覇権主義とそのせめぎあい》
トランプ政権の「アメリカ第一主義」からバイデン政権の同盟国重視路線への回帰がおこなわれ、日米同盟にもとづく軍事協力が急速にすすんでいます。日本では、2015年の安保法制=戦争法の成立以降、集団的自衛権の行使が可能となっており、そこで懸念されるのが、「台湾有事」をめぐる米中の対立です。台湾は、言うまでもなく中国の一部であり、国家ではありません。しかし、台湾が明らかに中国本土とは異なる政治体制をとっているため、習近平体制の中国が、香港の民主主義弾圧のような措置によって、台湾を中国本土と同様な体制に組み込むことを考えていることは明らかです。
トランプ政権は、中国に対して異常ともいえる制裁措置をとりましたが、バイデン政権は、中国をアメリカとの競争国と位置づけ、協力すべきところは協力し、対決すべきところは対決するという姿勢をとっています。したがって、中国が台湾を現在ロシアがおこなっているような軍事侵攻で片を付けようと考えるなら、アメリカは、積極的に軍事介入をおこなう可能性があります。そこで、懸念されるのが、日本がその紛争に巻き込まれる危険です。集団的自衛権行使容認の安保法制=戦争法のもとで、同盟国アメリカとともに戦うということになったなら、日本は、明確にこの戦争に巻き込まれることになります。そうした点を考えても、アメリカは、沖縄の基地を手放そうとは夢にも考えないし、対中攻撃の前線基地と化すのは目に見えています。
東アジアの平和は、軍事力の強化によってはけっして守れないことは明らかです。安保法制=戦争法の廃棄、日米安全保障条約を軍事同盟ではない平和の日米友好条約に変化させ、日本国憲法第9条を堅持し、平和外交によって問題を解決することを、私たちは、真剣に考えるべき時に来ています。
また今年は日中国交回復50年です。1978年に締結された日本と中国の平和友好条約の第2条では、日中両国が「アジア・太平洋地域においても叉は他のいずれの地域においても覇権を求めるべきではなく」と明記されています。台湾をめぐる中国と日米両国の緊張が高まっている現在、この日中の平和友好条約にもとづく紛争の平和的解決が強く望まれます。
《アジア情勢はどうなっているか》
米中経済摩擦、中国覇権主義の問題点が表面化するなかで、アジアのなかに、ASEANを中心とした平和と民主主義の潮流が生まれてきています。ロシアによるウクライナへの侵略戦争が深刻化するなかで、こうした平和の動きは重要です。
ASEAN地域の経済発展はめざましく、東南アジア域内経済圏として大きな力をもちつつあります。そうした経済的土台のうえに、さらに重要なのはアジアにおける平和システムづくりにおけるASEANの積極的役割です。ASEANを中心につくられたTAC(東南アジア友好協力条約)は、日本国憲法と共通する戦争放棄の理念を明記しています。ここに1955年バンドン会議以来の非同盟、平和の理念の歴史的継承があります。ASEANはこうしたTAC を基礎に東南アジアの平和的共同体を追求しています。1995年には東南アジア非核地帯化条約(1995年12月調印、97年に発行)を調印しています。さらに、ASEAN10か国と日米中8か国で東アジアサミット(EAS)を開催し、その発展をめざしています。2019年9月のASEAN首脳会議で、東アジア規模の友好協力条約を展望して「ASEANインド太平洋構想」(AOIP)が採択されました。東アジアサミットを強化発展させ、東アジア規模の友好協力条約の締結をめざすものです。この「構想」は中国、ロシア、アメリカなどを含む包括的な構想であり、東アジアにおける集団安全保障システムの構築とも言えます。こうした東アジアに
おける平和的共同体の追求が紛争を戦争でなく平和的外交的に解決することを可能にさせます。「台湾有事」を騒ぐのではなく、ASEANとの連携による東アジアにおける平和的システムの構築こそが日本の平和と安全を保障することになります。
東アジアの平和を展望する場合、朝鮮半島情勢も重要です。北朝鮮は国内の専制国家体制を継続させ、アメリカへの挑発をくり返しつつ、交渉を少しでも有利にすすめようとしています。そうした北朝鮮の暴発を抑止するうえで、一定の役割を果たしてきたのが、韓国における朝鮮半島の平和と統一を願う民主主義運動と、それに支えられた文在寅政権でした。しかしこの間、文政権は新自由主義政策への迎合と国内の格差拡大、行政の不祥事を生み出し、その結果、大統領選挙で保守派に敗北しました。そのなかで米韓日の軍事同盟体制の強化の危険が懸念されています。民主的運動は困難に直面していますが、社会運動・労働運動の力は根強く、日本の社会運動との継続的連帯が
求められます。
台湾でも民主勢力が台頭しており、東アジアの平和の共同体の展望を考えるうえで無視できない力を培いつつあります。
日本の改憲・軍事大国化の動きと相まって、歴史認識の貧困、日本帝国主義の朝鮮植民地化への加害責任の無反省は重大です。自民党政治がその最大の温床ですが、国民意識のなかに、それを受け入れる土壌があることは軽視されてはなりません。歴史認識を深めるとともに、この間、培われている韓国、台湾での市民社会の成熟、労働運動の展開への認識を深め、共同と連帯を強める必要があります。
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