労働者教育協会のブログ

生きにくいのはあなたのせいじゃない。

イデオロギー闘争の重要性─9条改憲と歴史認識(総会方針より)

 参院選が終わりました。

 残念ながら、市民と野党の共闘が後退し、自公維国の改憲勢力が3分の2を占めるという、きわめて残念で危機的な結果となってしまいました。

 選挙分析はこれからさまざまなかたちでなされていくと思いますが、危機を打開し、市民と野党の共闘の新たな前進を勝ちとるために、反共主義の克服をふくめたイデオロギー闘争の重要性がますます浮き彫りになっていると思います。

 選挙中にひきつづき、総会方針よりいくつか抜粋します。

 

《抑止力論は何をねらっているか─改憲を正当化するイデオロギー
 ロシアのウクライナ侵略の影響を受け、国民のなかで不安と危機感が強まっています。『朝日新聞』と東大の谷口将紀研究室の共同調査によると、「日本の防衛力はもっと強化すべきだ」に賛成が、2003 年の調査開始いらい、初めて6割を超えており、反対はわずか10%です(22年5月8日)。さらに、3 日の憲法記念日に発表された『朝日新聞』の世論調査では、今改憲必要が56%、変える必要がないが37%でした。その背景には、ウクライナ危機のなかで、日本と周辺にある国との戦争に不安を「感じるようになった」80%という状況があります。
 情勢で触れたように、こうした国民意識の変化のなかで、改憲派は、今にも日本周辺で戦争がおきると危機感をあおり、力には力で対抗すべきと9条改憲を声高に叫んでいます。自民党安全保障調査会は岸田首相に提言を提出し、「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」と名称を変えながら、基地攻撃だけでなく指揮統制機能などを攻撃する能力の保有、軍事費の倍増などを要求しています。さらに5年以内に、軍事費をGDP比で2%といまの倍増を提起しています。「敵基地攻撃能力」を保有すると言うことは、もはや完全に専守防衛の立場を捨てさることにほかなりません。さらに、安倍晋三元首相や維新の会は、非核三原則を見直し、「核共有」を提唱しています。“核の脅威”に対しては核戦力で対応する核抑止論の立場を公然と表明しました。
 このように、ウクライナ危機に乗じて、いっきに軍事には軍事、核には核をという抑止力論が叫ばれ、脅威に備えて改憲を急ぐ必要があると世論誘導がおこなわれています。この意味で、7月の参議院選挙が極めて重要な意味をもつようになっています。重要なことは、軍事に対抗する軍事では、緊張が高まり、戦争の危険性が増大するだけということです。ましてや核に対抗して核という抑止論は、核戦争の危険性を強めるだけです。今日本の抱えている戦争の脅威は、“台湾有事”は“日本有事”と言って、自公政権アメリカと中国の覇権争いに、アメリカを支援するために参戦の準備を強めていることにあります。2015年に強行された安保法制のもとで、アメリカ支援の集団
自衛権行使の体制をつくりつつあり、それを「敵基地攻撃能力」保有や大軍拡、核共有などで一気に完成することをねらっており、その仕上げが9条改憲です。
 その意味で、軍事には軍事という抑止力論は、日本の平和と安全を保障するものでなく、アメリカの覇権主義に協力し、そのなかで9条改憲と日本の軍事大国化を正当化するイデオロギーに他なりません。

《「歴史戦」というイデオロギー攻撃を克服するために》
 去る2月1日、岸田文雄内閣は「佐渡島の金山」(新潟県)の世界文化遺産登録をユネスコに推薦することを決定しました。当初、岸田首相は、日韓関係の悪化への懸念やユネスコ加盟国の反対を考慮して、推薦には慎重でした。韓国政府は戦時中の佐渡金山において朝鮮人の強制労働がおこなわれ、その記録が不十分であることを理由に、遺産登録に抗議していたのです。ところが、安倍晋三元首相ら日本会議系の自民党議員グループの強い圧力があり、結局、岸田首相は圧力に迎合し、推薦を閣議了解しました。安倍氏は、自身のフェイスブックで「歴史戦を挑まれている以上避けることはできない」と発言し、『夕刊フジ』のインタビュー(1月27日付)で韓国の「強制労働があった」という抗議に対し、「いまこそ、新たな『歴史戦チーム』を立ち上げて、日本の誇りと名誉を守り抜いてほしい」と語っています。岸田首相は、官邸内に、内閣官房、外務省、文部科学省からなる作業部会=「歴史戦チーム」を立ち上げました。
 「歴史戦」という言葉はあまり聞き慣れていませんが、この用語を使った著書『歴史戦』が2014年10月に産経新聞社から刊行されています。これは、同年4月1日付の『産経新聞』朝刊から始まった「歴史戦」というシリーズを再構成し、まとめたものです。主に、従軍慰安婦問題、徴用工問題、南京虐殺問題を取り上げ、「もうそろそろ、日本は本来の歴史を取り戻す『歴史戦』に打って出てもいいのではないか。歴史問題をもち出されると、条件反射的に謝罪を繰り返してきたこれまでの日本のままで、本当にいいのだろうか。やってもいないことを日本の恥ずべき犯罪行為だと決め付けられ、中韓からいわれなき非難を浴び続けるような現状は、いかに困難であろうとのりこえなくてはならない」とのべ、歴史認識の違いを事実関係の調査と学問的議論で解決するのではなく、自国の名誉のための国家と国家の「戦い」にしようと主張したのです。こうして右派ジャーナリズムで始まった運動が、安倍内閣の下で、国家的方針に取り入れられていきます。2019年の「外交青書」でも「いわゆる慰安婦問題を始めとする歴史認識」が「戦略的対外発信の取組」として位置づけられたのです。
 たたかう相手は主に韓国、中国であり、かつての日本帝国主義の植民地支配の問題が正当化され、これに抗議する韓国、中国との「日本の誇りと名誉」を守るイデオロギー的な戦争と位置づけられています。「歴史戦」のねらいは明白です。歴史を歪曲し、排外的ナショナリズムの形成によって、アジアとの連帯を拒否し、日本国民を再び軍事大国化の道に動員することにあります。侵略と植民地支配の歴史的真実をあきらかにし、アジアとの連帯を展望する歴史学習がいまほど重要なときはないといえます。

 

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