インタビュー/NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長 大西 連さん/「半径10メートルにある貧困を知ろう」
NHK報道番組で「経済的理由で進学を断念した」と紹介された高校生に対し、ネット上で〃本当の貧困ではない〃など中傷の嵐が吹き荒れる事態が最近発生しました。その背景について、NPO法人自立生活サポートセンター・もやいの大西連理事長は「衣食住がままならない『絶対的貧困』と異なる『相対的貧困』の実態が理解されていないからだ」と指摘します。相対的貧困とは何か? 話を聞きました。
●Q 相対的貧困と普通の貧困との違いは?
相対的貧困とは、その国の標準的な所得(全人口の中央値)の半分以下で暮らしている状態です。一人世帯だと社会保険料などを除き月10万円程度しか使えない生活。日本では6人に1人がこの貧困ラインを下回る状況に置かれています。
一方、相対的貧困層の生活は、一見普通の人と変わらず、目に見えて困っている様子はありません。しかし、「自分や家族の将来への投資(教育)ができない」「普通の人なら当たり前にできることが難しい」という困難に日々直面しています。この困難さは特に一人親家庭などで顕著です。
学校には通えていても、部活で使うサッカーシューズが買えなかったり、修学旅行に参加するお金がない。友達はバイト代で洋服を買っているけど、自分は家計に入れている。希望する進学を諦めざるを得ない人も少なくありません。
●Q バッシングはなぜ起きたのでしょう?
これまでイメージされてきた貧困と、現実に起きている問題とのギャップに、多くの人が追いつけていないことが一番の要因です。
従来、日本企業の多くは終身雇用制で、働き続ければ賃金も上がる。そんな世帯主に扶養されている家族に生活の不安はありませんでした。貧困はそこからはみ出した人の問題であり、「努力もしないで怠けているから」という認識でした。
しかし、終身雇用が崩れる中、派遣など非正規労働者が増え続け、正社員にもかつての安定は保障されていません。中間層の収入は減り続け、貧困が特別ではなくなっています。にも関わらず多くの人がそれに気づいていない。その結果、貧困を訴える女子高生を見て「あれは貧困じゃない」となってしまうのです。
また貧困問題は個人の感情や基準が投影されやすいので、暮らしぶりの一部を切り取り、「自分はもっと大変だった」と受け止めてしまいがちです。
●Q 貧困の認識を改める必要がありますね。
自分の半径10メートルを見回してみてください。
職場にいる非正規社員の女性はもしかしたらシングルマザーかもしれない。若い社員は奨学金を返済しながら生活しているのかもしれない。さっき入った喫茶店の店員さんは、アルバイトを掛け持ちして生活費を稼いでいるのかも…。
自分の職場や地域を見渡せば、この問題がすぐそばにあると気づくはずです。相対的貧困にある人が、普通の生活を求めるのは当たり前の権利です。貧困者バッシングは何も生みません。