労働者教育協会のブログ

生きにくいのはあなたのせいじゃない。

大企業が海外に逃げる?

 以前、勤通大の受講生から、以下のような質問がありました。

 大企業にたいして、法人優遇税を元に戻し、あるいは最低賃金の賃上げなどを迫ると、大企業は海外に逃げてしまうので、さらに産業が空洞化し、雇用情勢が悪化するのではないか、という見解にたいする反論を教えてほしい、というものです。

 こういった「大企業が海外に逃げる」といった議論は、学習活動家のなかにもかなり浸透しており、最近よくでる疑問・質問の1つになっています。
 以下は、その受講生への解答です。
 
 今日のアメリカをはじめ、世界不況(恐慌)のもとで、わが国の大企業(多国籍企業)は、アメリカにむけて自動車や電機製品などの輸出が落ち込み、それに変わって、中国をはじめとするアジア諸国に向けて大規模な資本輸出をおこなっています。
 これは、日本よりいっそう安い賃金(中国はかつて日本の30分の1といわれていましたが、現在はかなり上昇しています。それでも日本との格差は歴然としています)で現地の労働者を雇い、現地生産、現地販売をおこなって大もうけし、内部留保を増大させています。
 そのために国内では産業空洞化が進行し、非正規切り、賃下げ、下請単価の切り下げなどが進み、国民の消費購買力を弱め、内需不振がいっそうひどくなり、不況が長期化しているのです。

 この内需不振による不況克服のためには、大企業がため込んだ内部留保(利益剰余金のほか、資本金10億円以上の大企業5000社の内部留保は2009年末で約200兆円にのぼります)を雇用拡大、賃上げなどに使い、また、あなたのいうように法人優遇税を元に戻し、あるいは最低賃金の引き上げ、さらには社会保障の拡充などを実施し、社会に還元させることが必要です。
 こうしたことをつうじて内需を増大させてこそ、不況克服が可能になるのです。

 日本経済の健全な発展のためには、GDPの6割を占めている国内の個人消費による内需の拡大ばかりでなく、中国をはじめとするアジア、さらには世界各国との貿易の拡大による原料・資源などの輸入や日本の商品の輸出による外需の拡大も必要です。
 内需と外需の均衡のとれた発展こそがもとめられているのです。

 大企業にたいして、法人優遇税を元に戻し、あるいは最低賃金を引き上げなどを迫ると、「大企業は海外に逃げてしまい、いっそう国内の産業空洞化が進み、雇用情勢がさらに悪化する」というのは、あなたのいうように大企業の利潤第一主義にもとづくまったくの脅し文句です。
 同時に、そのことを政府に大企業優遇の政策をおこなわせることを国民に認めさせる口実として利用しているのです。
 しかし、実際には、大企業が海外に進出する理由は、上記のような労働コストのほか、海外市場の将来性といった問題が上位で、税負担は5番目にすぎません(グラフ参照)。
 また、海外に進出している日本企業は、進出先の国の基準に従って法人税を支払っていますが、日本の法人税よりも高いケースがあっても、そのことが理由で引き上げるなどということはほとんどありません。
 
 
イメージ 1
 

 労働者・国民がこうした大企業の横暴とたたかい、大企業の社会的責任をはたさせてこそ、日本経済の再建を実現させることができるのです。
 大企業は、この不況の時期にも、上記のように大量の内部留保をため込んでいるのです。
 月1万円の賃上げを実現するためには、内部留保額の1%にも満たない費用の捻出で可能だといわれています。

回答者:辻岡靖仁(勤労者通信大学講師・経済学者)
 
 
 こうした「大企業海外逃亡」論とともに、「国際競争力」論も幅をきかせています。

 最近でた友寄英隆さんの『「国際競争力」とは何か』(かもがわ出版)について経済学教科委員会で学習会をひらくなど、学習援助の強化に力を入れています。  (勤通大部長・吉田ふみお)