しかし、その2006~07年ごろに自らの手で明文改憲を実現しようと躍起になった第1次安倍政権は、教育基本法改悪や国民投票法成立は成し遂げましたが、労働者・国民の世論と運動のひろがりによって2007年の参院選で歴史的惨敗を喫することで退陣を余儀なくされ、明文改憲も一時的に頓挫することとなりました。
そうした失敗を経験しているだけに、安倍首相はきわめて慎重になっています。
《憲法第九条を変えて国防軍を創設することが第二次安倍内閣の最大のねらいです。しかし、誕生した安倍内閣は、今年七月に予定されている参議院選挙での「勝利」をめざし、当面は真のねらいを「封印する」「安全運転」をめざしています。安倍首相は、第一次安倍内閣の失敗を繰り返すまいとしています》。
このように安倍首相は、当面は経済対策(いわゆるアベノミクス)に力を入れ、明文改憲(とくに9条問題)についてのあからさまな発言や行動を極力控えるようにしています。
第96条の改正要件の緩和を優先させるのも、失敗を2度とくり返すまい、最大のねらいである第9条改悪を必ず実現しようという、安倍首相の並々ならぬ決意のあらわれなのです。
山田氏は、同論文で次のようにのべています。
《安倍内閣は、本気になって、憲法を変えようとしています。……安倍首相は、国民の反発を恐れ、第九六条の国会は次要件の改定を先行しようと主張しています。現在の三分の二を過半数に変えようというのです。これには「日本維新の会」も同調しています。このやり方は国民の反発を考慮して、“改憲慣れ”させてから真のねらいである九条改憲をめざそうとするものです》。
また、第96条の改悪は突然でてきたのではありません。
2006~07年のときの明文改憲攻撃のときに自民党がかかげた「新憲法草案」(2005年11月)は、第9条と第96条の改悪に重点が置かれていました。
自民党はもともと全面改定を考えていたのですが、2005年1月に日本経団連「国の基本問題検討委員会」の報告書「わが国の基本問題を考える」において「憲法改正のアプローチ」を提起しました。
このなかでは、「当面、最も求められる改正は、現実との乖離が大きい第九条二項(戦力の不保持)ならびに、今後の適切な改正のために必要な第九六条(憲法改正要件)の二点と考える」とされ、「まず、これらの改正に着手し、あわせて」、「これ以外の憲法上の論点について、議論を展開していく必要がある」とのべられています。
つまり、改憲の重点が第9条第2項と第96条の2点だと指摘されたのです。
ここらへんの経緯についてくわしくは、山田敬男著『新版戦後日本史─時代をラディカルにとらえる』(学習の友社、2009年)第7章を参照してください。
くり返しになりますが、「改憲の最初のねらいが第96条」というのは、あくまでも最大のねらいである第9条の改悪を確実にものにするための手法といえます。
安倍首相は、それだけ本気になって第9条改悪を実現しようとしているのだということを、しっかりと抑えておくことが大事です。