労働者教育協会のブログ

生きにくいのはあなたのせいじゃない。

交戦権の「権」は権利ではなく「権力」では?

憲法コース受講生からの質問と回答を掲載します。

Q:
 第9条第2項の交戦権の「権」は権利ではなくて「権力」のことではないでしょうか。第1項の「国権」は「国家権力」の意味でしょうから。ところがテキストには交戦権の説明で「国家が戦争をおこなう権利」とされています。また英訳憲法(童話屋ポケット版)で「国権」はright of the nation、「交戦権」にも「right」(権利)が使われていて「power」ではありません。なぜでしょうか。ちなみに第41条の「国権」は「State Power」となっています。

A:
 憲法第9条第2項の交戦権の「権」は権利の「権」です。これは国家が戦争をおこなう権利という意味で、これまでは各国家は主権の一部として戦争を行なう権利があると考えられてきました。こういう権利を認めないと決めたのが1928年の不戦条約です。第9条第1項の「国権」も「権利」です。戦争はこの権利の発動なのです。第41条の「国権」は「国家権力」です。国家は権力のシステムで、軍隊、警察、官僚などはすべて権力組織です。国会はこういう権力装置のうちの最高のものという意味です。
 第9条第2項の「国権の発動たる戦争」は、はじめの政府案では「国の主権の発動たる戦争」(War as a sovereign right of the nation)となっていましたが、議会での討議のなかで、「国の主権」が「国権」に修正されました。憲法学者の深瀬忠一氏は、この経緯について以下のようにのべています。
 「……政府案では『国の主権の発動たる戦争』……を、鈴木義男議員……の質問的意見において、……『国家権力』という意味で(使っている─引用者)なら『国権』という言葉が適切だと思われる、政府は『何か特別の理由』を以てこの用語を採用しているのか、と質問したのに対し、金森国務大臣は、『国家主権、国家統治権』という意味で、『特に深い意味を含めていない』と答弁、これが衆議院の修正となり『国権の発動たる戦争』と改められ」ました。しかし、「日本語の修正もかかわらず」、なぜか英文は「War as a sovereign right of the nation」のまま「不変」だったということです(深瀬忠一『戦争放棄と平和的生存権岩波書店、1987年、143ページ)。